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「タクジョ!」(小野寺史宜)

女性客が安心してタクシーに乗れるよう、自分が運転手になると決めた四大卒の新人ドライバー夏子。無賃乗車や強盗未遂などにもあいながら、先輩や同僚そして家族に支えられて、仕事に恋に立ち向かっていく物語です。

小野寺史宜さんの作品は「まち」「ひと」と3作品目の読了となりますが、本作も”人間同士の縁・絆”が優しく繋がっていて、読後あたたかな気持ちになりました。

タクシー業界の内部事情も丁寧に描かれていますので、”お仕事小説”としても楽しめる一冊となっています。

昨年11月には続編「タクジョ!みんなのまち」が刊行されたようですので、こちらも機会あればチェックしたいと思います。

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「このビル、空きはありません!」(森ノ薫)

オフィス仲介営業の新入社員の主人公。初契約と思われた案件が押印直前で壊れて、謎の「特務室」に左遷されてからの”反撃?”の物語で、2022年ノベル大賞大賞受賞作。

”仲介業のお仕事小説”としても楽しめますし、ちょっとした謎解きも楽しめる一冊です。

業界のタブーや契約の奪い合い等、読みやすい文体で描かれているので、一気に読み進める事が出来ました。

本作が森ノ薫さんのデビュー作との事ですが、次回作を期待したい作家さんの一人となりました。

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「まち」(小野寺史宜)

両親を亡くし、尾瀬の荷運びを生業とする祖父に育てられた主人公:瞬一。

「よその世界を知れ。知って、人と交われ・・・」とじいちゃんに言われて東京に上京し、隣人やバイト仲間と助け合ったり苦楽を共にしていく物語です。

前作「ひと」からつながる物語との事で、砂町銀座商店街の「おかずの田野倉」も登場します。

東京下町の風景と”人の温かさ”を感じられる作品で、心穏やかに一気に読むことが出来ました。

じっちゃんが尾瀬から瞬一を訪ねてきて話します。

・・・瞬一は頼る側じゃなく、頼られる側でいろ。お前を頼った人は、お前をたすけてもくれるから。たすけてはくれなくても、お前を貶めはしないから・・・

決して器用な生き方ではないかもしれないし、”日に当たらない”生き方かもしれないですけど”人を大事にする”ことが一番と、あらためて痛感させられた一冊でした。

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「ブラックウェルに憧れて」(南杏子)

医科大学の解剖学実習で組まれた女性だけの4人の班と医科大学で初の女性教授。20年後医師としてそれぞれの道を選び、命と向き合う5人の物語です。

2018年に大きな話題となった、医科大学の一般入試での女性受験者への差別事件。受験者側に説明のないまま女子受験者の点数を減点して、合格者数を調整していた事が各地の医大で長年行われていた問題はまだまだ記憶に新しいと思います。その事件を切り口として5人の女医達の苦悩や葛藤が描かれています。

男女雇用機会均等法等が成立されたのが昭和60年、労働者が女性であることを理由とした差別的な取り扱いが禁止されていますが、未だに根強く「男尊女卑」が残る社会があると痛感させられた一冊でした。

女性教授がする際の最終講義で医師たちに語り掛けます。

”男性医師たちよ、どうぞ偽りなく誠実に。そして親愛なる女性医師たちよ、勇敢であれ!”

そしてタイトルにもなっている、ブラックウェルの言葉

”もし社会が女性の自由な成長を認めないのなら、社会の方が変わるべきなのです”

医療に携わっている方、これから医療を目指そうとしている方に、そして男性に読んでいただきたい一冊です。

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「史上最強の内閣」(室積光)

北朝鮮が、日本に向けた中距離弾道ミサイルに燃料注入を開始したとのニュースが流れ、京都に隠されていた「本物(影)の内閣」が政権を握るというストーリー。

本作は2010年に刊行され一部加筆されて文庫化されていますが、そのまま現在の情勢を映しています。はなはだ乱暴なストーリーとも思いますが、全く進展の無い日朝関係に風穴を開ける”指標”を示してくれているのではないでしょうか?。

弾道ミサイルを発射される度に、「厳重に抗議する」と判で押したように会見する政権には、こうしたカンフル剤が必要なのではないですかね。

また何故にいまでも朝鮮半島で「反日」感情が根強く残っているのか?中国とロシア、アメリカとの関係性も、独自の論点で物語に取り込まれています。

最後はまさに”痛快活劇”を見ているような、楽しめるエンタテインメント小説です。