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「カフーを待ちわびて」(原田マハ)

第1回「日本ラブストーリー大賞」大賞受賞作であり、原田マハさんのデビュー作。

沖縄の小さな島でくりひろげられる、やさしくて、あったかくて、ちょっと切ないラブストーリーです。

不器用でコンプレックスを抱えた主人公明青(あきお)。初めて本土に旅した際、神社に「嫁に来ないか。幸せにします。」と書いた絵馬を奉納します。その後島に戻った明青のもとに一通の手紙が届きます。「・・・あの絵馬に書いてあったあなたの言葉が本当ならば、私をあなたのお嫁さんにしてくださいますか。・・・」。しばらくすると手紙の差出人幸(さち)が島にやってきます。ここから明青と幸と、裏に住む”おばあ”との不思議であたたかい生活が始まります。

沖縄言葉や風土風習、ページをめくるたびに”沖縄の風”が吹いてきます。今はなき「日本(沖縄)の原風景」なのかも知れません。

今まで私も2度、沖縄を訪れた事があります。南部の戦争跡地や首里城、中部のリゾート観光スポット、そして北部の「やんばるの森」まで。沖縄には様々な顔があります。本土とは全く違った文化は沖縄の宝だと改めて思い知らされました。

作者である原田さんは本作以降、沖縄を舞台にした作品を何作か発表されています。島原産のサトウキビを使ってラム酒を作ろうと奔走する「風のマジム」。そして、本作「カフーを待ちわびて」と同時進行で描かれた、もう一つの物語「花々」。旅好きの原田さんの「沖縄愛」がひしひしと伝わってくる作品です。

沖縄を旅する前、旅した後でも風を感じられる一冊です。

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「本日は、お日柄もよく」(原田マハ)

”言葉の力”を痛感させられたのが、本書です。

大手製菓会社に勤める二ノ宮こと葉はお気楽なOL。想いを寄せていた幼ななじみの結婚式で、涙が溢れるほど感動する衝撃的な祝辞に出会います。それが、伝説のスピーチライター久遠久美との出会いでした。空気を一変させる祝辞に魅了されたこと葉はすぐに弟子入りし、スピーチライターの世界に飛び込みます。

表紙をめくると”スピーチの極意 十箇条”が紹介されています。ごく当たり前のことなのかも知れませんが、最後の「十.最後まで、決して泣かないこと」は作者原田さんなりのポリシーでもあるのかも知れませんね。

スピーチを通した”人生訓”も描かれています。

・・・聞くことは、話すことよりもずっとエネルギーがいる。だけどその分、話すための勇気を得られるんだ、と思います。・・・

・・・安定した仕事で幸せになるのもいい。けれど、人を感動させ、幸せにする仕事に就けるのはもっといい、・・・

・・・困難に向かい合ったとき、もうだめだ、と思ったとき、想像してみるといい。三時間後の君、涙が止まっている。二十四時間後の君、涙は乾いている。二日後の君、顔を上げている。三日後の君、歩き出している・・・。

本書はもう一つ「政治、政権交代」をテーマとしています。スピーチライターの久美は野党”民衆党”のスピーチライターとして、党幹事長の最後の国会代表質問、弔辞などを手掛けてるのですが、このスピーチシーンが感涙ものです。以前WOWOWにて連続ドラマ化されていてましたが、やはりスピーチシーンは心に沁みましたね。

普通の”お仕事小説”ではない本書は、
 ・スピーチを生業にしている方(経営者含む)
 ・披露宴などでスピーチを依頼されている方
そして”議員”さんの教科書になるのではないでしょうか?。

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「流浪の月」(凪良ゆう)

本屋大賞受賞、映画化決定との事で興味があったので、凪良ゆうさんの作品を初めて手に取りました。

父を亡くし、母が居なくなった少女。親戚に預けられるんですが、ここでも居場所がないので、近くの児童公園のベンチで遅くまでたたずむ毎日。そんな少女の反対側のベンチでいつも本を読んでいる大学生の文(ふみ)に声を掛けられるところから物語が始まります。15年後二人は再開。世の中の生きづらさ、現実と真実、デジタルタトゥー、マスコミ報道。そうした社会に振り回されていく二人。

正直、これほどハードな物語とは思いませんでした。

どんな小説でも、どこかしら”救いになる”部分はあると思って、読み進めていくんですが、この作品は最後まで見つけられませんでしたね。

ただ一つ言えることは、今の社会でこの物語が現実に起きていてもおかしくないって事です。決して誰が悪いわけじゃないんですけど、社会の仕組みがそうなってしまってるのかも知れないです。

映画はまだ見てないですが、機会があれば見てみたいと思います。

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「旅屋おかえり」(原田マハ)

原田マハさんの「旅物語」です。

売れない崖っぷちアラサータレント”おかえり”こと丘えりか。唯一のテレビ番組が些細な事で打ち切りになります。そんな彼女がふとしたきっかけで”旅代行業”を始めます。秋田県角館市と愛媛県内子町での旅で出会った人たちを”笑顔”にして、自身も”パワー”をもらう”おかえり”の物語です。

・・・なつかしくて美しい風景、ささやかだけどあったかい出会いがあるから、旅に出たいと思う。そして「いってらっしゃい」と送り出してくれて、「おかえり」と迎えてくれる誰かがいるから、旅は完結するんだ。そんなふうに思いました。・・・

・・・どこへ行こうと、どんな旅であれ、それは心躍るできごとに違いない。旅する日常が、また戻ってくるとしたら、こんな嬉しいことはない。だから、たとえ依頼人に頼まれたものであっても「旅をさせられる」なんてことはない。きっと私は、いつだって、自分から進んで旅に赴くだろう。自分で考え、感じ、味わって、存分に楽しむはずなのだ。・・・

「旅好き」の原田マハさんらしい表現ですね。

私も旅は嫌いじゃないんですが、どうしても”目的”だけで完結してしまいます。「史跡を見たい」とか「風景を写真に撮りたい」などなど。”おかえり”も目的を完結するために旅を続けていくのですが、出会った見知らぬ人達をも巻き込んで、笑顔にしているんですね。こんな旅をしていれば、やはり旅好きにならないわけがない。

本作は2022年1月にNHKBSにて安藤サクラさん主演でドラマ化されました。原作の世界観壊すことなく、ドラマ化されていましたし、安藤さんがはまり役でした。願わくば一話30分の4回では、ちょっと物足りない感じではありました。そして来年2023年1月に新作がNHKBSにて「長野編」、「兵庫編」が放送されるようです。

https://www.nhk.jp/g/blog/2kyux6zfv2/

”おかえり”の新たな旅物語と出会い、楽しみです。

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「傑作はまだ」(瀬尾まいこ)

文庫本の帯にはこんなコメントが

・・・『そして、バトンは渡された』につづく、ちょっとズレた父とすこやかな息子の「はじめまして」の物語

瀬尾まいこさんの「そして、バトンは渡された」は、3人の父親と娘、そして義母の物語でしたが、今回は父と息子です。

50歳のそこそこ売れている引きこもり作家と、突然やってきた生まれてから一度も会っていない25歳の息子の物語。

若い頃に学生時代の友人から誘われて参加した「飲み会」の席で「長所は見た目だけの空っぽな女」と一夜を共にした主人公。

三か月後に家にやってきた彼女は「妊娠した」「とりあえず、私は産むわ」と告げます。

主人公は女の主張通り養育費として毎月10万円を欠かさず振り込み、その2~3日度に「10万円受け取りました」とだけ書かれたメモと、子どもの写真が送られてくるのです。

孤独に慣れ切った50歳の主人公と息子の生活は当初全く嚙み合いませんが、しだいに二人の生活が変わり始めていきます。

そして「何故に息子は突然、会った事のない父親を訪ねてきて、同居生活を始めたのか?。」物語の最後に判明します。

瀬尾まいこさんの作品は「そして、バトンは渡された」「戸村飯店 青春100連発」と、読了したのは今回で3作品目となります。共通しているのは、登場人物に「悪い人」がいないって事ですね。みんな個性豊かな「愛されキャラクター」で描かれています。

今回の作品で特にお気に入りのシーン(セリフ)が秋祭りの古本市に主人公が参加して際に聞かされた老人たちの何気ない言葉。

・・・持ち込まれた本は辞書やガイドブックや最近の文庫本までで多岐にわたる。その反面、手にしてもらえるのは、料理本やエッセイ、恋愛ものや推理ものなど、読みやすい本ばかりだ。

「年取ったら難しい本読まなくなるなあ」

「そうそう。登場人物が多いと誰が誰か忘れるんだよ」

「わざわざ重い話を自分の時間に読むの、もったいないじゃない。」・・・

まさに私も同感です。

決してテーマが重い軽いじゃないんですが、読み終わった後の「後味」が良い作品に巡り合うと嬉しくなります。そして、周囲に紹介して感動や思いを共有していきたくなります。

この本もそんな一冊です。

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「永遠をさがしに」(原田マハ)

世界的な指揮者の父とふたりで暮らす16歳の和音と、突然現れた”新しい母”真弓の物語。和音と真弓はお互い「くそババア」「くそガキ」と負けん気の強さ100%。父がアメリカボストン交響楽団の音楽監督して単身渡米する事で、そんな二人の奇妙な同居生活が始まります。

最初は互いの育ってきた、生活してきた環境の違いもあり、バタバタしたストーリー展開と思いましたが、次第にそれぞれの想いが一つになってきます。和音の母と真弓の母、それぞれの親子(母娘)関係、そんな二人を結びつけるのはチェロ。キュレーターとして美術に造詣の深い原田マハさんですけれど、音楽方面にも明るいんですねぇ。

ラストに向かっての二人の葛藤と希望と勇気、そして挑戦。

原田ワールド全開です。

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「生きるぼくら」(原田マハ)

原田マハさんの「生きるぼくら」を読了。

いじめから、ひきこもりとなった24歳の主人公「麻生人生」は母と二人暮らし。

・・・あなたはあなたの人生を、これからも好きなように生きていってください。・・・

便箋にそうしたためた文字と今年の年賀状の束を残して、頼りにしていた母親が突然いなくなるところから物語がスタートします。その年賀状の束の中に

・・・もう一度会えますように。私の命が、あるうちに・・・

と書かれた祖母からの年賀状をみつけて、祖母のマーサさんが住む長野県蓼科へ向かいます。

蓼科の自然と人間に触れながら成長していく一年間の物語です。

文庫本の表紙に描かれているのが、日本画家東山魁夷さんの「緑響く」。

マーサばあちゃんが人生たちに「あなたに見せたい風景が、ここにあるの」と言って連れてきたのが御射鹿池。「緑響く」のモチーフとなった場所です。

・・・人生の目の前に現れたもの。それは静まり返った小さな湖だった。冬の日差しを照り返し、近くの小高い山の姿を逆さまに映して、静かに広がる湖面、清潔な青空が、そのまま大地に下りてきたようだ・・・。

この表現はキュレーターとして数々の芸術作品に触れてきた、原田マハさんならでは表現なのかも知れない。本作をきっかけにして、本年4月長野県信濃美術館にて「緑響く」を鑑賞。絵画の前で30分程過ごしてきました。さすがに御射鹿池までは足を延ばせませんでしたが、是非とも機会を作りたいと思います。その他にも本作は田園風景や山々の風景描写が素晴らしいです。これも「旅人 原田マハ」さんの本領発揮ですかね。

また「米作り」をテーマにしている事で、忘れかけられている「日本の原風景」を表している作品でもあります。

ここ数年、映像化作品の多い原田マハさんの作品ですが、是非ともこの作品をドラマ・映画で見たいと思わされた一冊でした。

こんな時代だからこそ「生きる意味」を考えさせられました。