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「流浪の月」(凪良ゆう)

本屋大賞受賞、映画化決定との事で興味があったので、凪良ゆうさんの作品を初めて手に取りました。

父を亡くし、母が居なくなった少女。親戚に預けられるんですが、ここでも居場所がないので、近くの児童公園のベンチで遅くまでたたずむ毎日。そんな少女の反対側のベンチでいつも本を読んでいる大学生の文(ふみ)に声を掛けられるところから物語が始まります。15年後二人は再開。世の中の生きづらさ、現実と真実、デジタルタトゥー、マスコミ報道。そうした社会に振り回されていく二人。

正直、これほどハードな物語とは思いませんでした。

どんな小説でも、どこかしら”救いになる”部分はあると思って、読み進めていくんですが、この作品は最後まで見つけられませんでしたね。

ただ一つ言えることは、今の社会でこの物語が現実に起きていてもおかしくないって事です。決して誰が悪いわけじゃないんですけど、社会の仕組みがそうなってしまってるのかも知れないです。

映画はまだ見てないですが、機会があれば見てみたいと思います。

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「旅屋おかえり」(原田マハ)

原田マハさんの「旅物語」です。

売れない崖っぷちアラサータレント”おかえり”こと丘えりか。唯一のテレビ番組が些細な事で打ち切りになります。そんな彼女がふとしたきっかけで”旅代行業”を始めます。秋田県角館市と愛媛県内子町での旅で出会った人たちを”笑顔”にして、自身も”パワー”をもらう”おかえり”の物語です。

・・・なつかしくて美しい風景、ささやかだけどあったかい出会いがあるから、旅に出たいと思う。そして「いってらっしゃい」と送り出してくれて、「おかえり」と迎えてくれる誰かがいるから、旅は完結するんだ。そんなふうに思いました。・・・

・・・どこへ行こうと、どんな旅であれ、それは心躍るできごとに違いない。旅する日常が、また戻ってくるとしたら、こんな嬉しいことはない。だから、たとえ依頼人に頼まれたものであっても「旅をさせられる」なんてことはない。きっと私は、いつだって、自分から進んで旅に赴くだろう。自分で考え、感じ、味わって、存分に楽しむはずなのだ。・・・

「旅好き」の原田マハさんらしい表現ですね。

私も旅は嫌いじゃないんですが、どうしても”目的”だけで完結してしまいます。「史跡を見たい」とか「風景を写真に撮りたい」などなど。”おかえり”も目的を完結するために旅を続けていくのですが、出会った見知らぬ人達をも巻き込んで、笑顔にしているんですね。こんな旅をしていれば、やはり旅好きにならないわけがない。

本作は2022年1月にNHKBSにて安藤サクラさん主演でドラマ化されました。原作の世界観壊すことなく、ドラマ化されていましたし、安藤さんがはまり役でした。願わくば一話30分の4回では、ちょっと物足りない感じではありました。そして来年2023年1月に新作がNHKBSにて「長野編」、「兵庫編」が放送されるようです。

https://www.nhk.jp/g/blog/2kyux6zfv2/

”おかえり”の新たな旅物語と出会い、楽しみです。

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「傑作はまだ」(瀬尾まいこ)

文庫本の帯にはこんなコメントが

・・・『そして、バトンは渡された』につづく、ちょっとズレた父とすこやかな息子の「はじめまして」の物語

瀬尾まいこさんの「そして、バトンは渡された」は、3人の父親と娘、そして義母の物語でしたが、今回は父と息子です。

50歳のそこそこ売れている引きこもり作家と、突然やってきた生まれてから一度も会っていない25歳の息子の物語。

若い頃に学生時代の友人から誘われて参加した「飲み会」の席で「長所は見た目だけの空っぽな女」と一夜を共にした主人公。

三か月後に家にやってきた彼女は「妊娠した」「とりあえず、私は産むわ」と告げます。

主人公は女の主張通り養育費として毎月10万円を欠かさず振り込み、その2~3日度に「10万円受け取りました」とだけ書かれたメモと、子どもの写真が送られてくるのです。

孤独に慣れ切った50歳の主人公と息子の生活は当初全く嚙み合いませんが、しだいに二人の生活が変わり始めていきます。

そして「何故に息子は突然、会った事のない父親を訪ねてきて、同居生活を始めたのか?。」物語の最後に判明します。

瀬尾まいこさんの作品は「そして、バトンは渡された」「戸村飯店 青春100連発」と、読了したのは今回で3作品目となります。共通しているのは、登場人物に「悪い人」がいないって事ですね。みんな個性豊かな「愛されキャラクター」で描かれています。

今回の作品で特にお気に入りのシーン(セリフ)が秋祭りの古本市に主人公が参加して際に聞かされた老人たちの何気ない言葉。

・・・持ち込まれた本は辞書やガイドブックや最近の文庫本までで多岐にわたる。その反面、手にしてもらえるのは、料理本やエッセイ、恋愛ものや推理ものなど、読みやすい本ばかりだ。

「年取ったら難しい本読まなくなるなあ」

「そうそう。登場人物が多いと誰が誰か忘れるんだよ」

「わざわざ重い話を自分の時間に読むの、もったいないじゃない。」・・・

まさに私も同感です。

決してテーマが重い軽いじゃないんですが、読み終わった後の「後味」が良い作品に巡り合うと嬉しくなります。そして、周囲に紹介して感動や思いを共有していきたくなります。

この本もそんな一冊です。

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「永遠をさがしに」(原田マハ)

世界的な指揮者の父とふたりで暮らす16歳の和音と、突然現れた”新しい母”真弓の物語。和音と真弓はお互い「くそババア」「くそガキ」と負けん気の強さ100%。父がアメリカボストン交響楽団の音楽監督して単身渡米する事で、そんな二人の奇妙な同居生活が始まります。

最初は互いの育ってきた、生活してきた環境の違いもあり、バタバタしたストーリー展開と思いましたが、次第にそれぞれの想いが一つになってきます。和音の母と真弓の母、それぞれの親子(母娘)関係、そんな二人を結びつけるのはチェロ。キュレーターとして美術に造詣の深い原田マハさんですけれど、音楽方面にも明るいんですねぇ。

ラストに向かっての二人の葛藤と希望と勇気、そして挑戦。

原田ワールド全開です。

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「生きるぼくら」(原田マハ)

原田マハさんの「生きるぼくら」を読了。

いじめから、ひきこもりとなった24歳の主人公「麻生人生」は母と二人暮らし。

・・・あなたはあなたの人生を、これからも好きなように生きていってください。・・・

便箋にそうしたためた文字と今年の年賀状の束を残して、頼りにしていた母親が突然いなくなるところから物語がスタートします。その年賀状の束の中に

・・・もう一度会えますように。私の命が、あるうちに・・・

と書かれた祖母からの年賀状をみつけて、祖母のマーサさんが住む長野県蓼科へ向かいます。

蓼科の自然と人間に触れながら成長していく一年間の物語です。

文庫本の表紙に描かれているのが、日本画家東山魁夷さんの「緑響く」。

マーサばあちゃんが人生たちに「あなたに見せたい風景が、ここにあるの」と言って連れてきたのが御射鹿池。「緑響く」のモチーフとなった場所です。

・・・人生の目の前に現れたもの。それは静まり返った小さな湖だった。冬の日差しを照り返し、近くの小高い山の姿を逆さまに映して、静かに広がる湖面、清潔な青空が、そのまま大地に下りてきたようだ・・・。

この表現はキュレーターとして数々の芸術作品に触れてきた、原田マハさんならでは表現なのかも知れない。本作をきっかけにして、本年4月長野県信濃美術館にて「緑響く」を鑑賞。絵画の前で30分程過ごしてきました。さすがに御射鹿池までは足を延ばせませんでしたが、是非とも機会を作りたいと思います。その他にも本作は田園風景や山々の風景描写が素晴らしいです。これも「旅人 原田マハ」さんの本領発揮ですかね。

また「米作り」をテーマにしている事で、忘れかけられている「日本の原風景」を表している作品でもあります。

ここ数年、映像化作品の多い原田マハさんの作品ですが、是非ともこの作品をドラマ・映画で見たいと思わされた一冊でした。

こんな時代だからこそ「生きる意味」を考えさせられました。

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「戸村飯店 青春100連発」(瀬尾まいこ)

大阪の超庶民的中華料理店「戸村飯店」で育った兄弟、ヘイスケ(兄)とコウスケ(弟)の青春物語。要領も見た目もよい兄と、単純な性格の弟。高校卒業後上京する兄と家業の中華料理店の跡を継ごうとする弟の一年間の苦悩。

ほぼ関西弁で展開するストーリーは笑いあり涙ありで、一気に読破しました。

物語が進んでくる事で変わってくる兄弟互いへの気持ちの変化は本書のテーマかも知れません。

兄弟のおやじも良い味出しています。

・・・俺もコウスケも薬を飲むことなくポカリを飲んで風邪を治した。アクエリアスでもいいんじゃないのか、と言いたいところだけれど、おやじ曰く「アクエリアスはコカコーラやろう。そやけど、ポカリは製薬会社が作ってるから一番効く」らしい・・

このおやじの感覚、大好きです。

そのほかにも、おやじは兄弟が進路に悩んだ時に無茶苦茶な行動・発言もしますが、結局は方向を導いてくれているんですよね。

瀬尾まいこさんの本は「そして、バトンは渡された」を読んだのが初めてだったのですが、「やさしい家族の物語」は本書でも受け継がれています。

読み終わった後で、戸村家の数年後が気になる作品でした。