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「まぐだら屋のマリヤ」(原田マハ)

東京の老舗料亭で修行をしていた紫紋(しもん)。料亭で起こった事件に機に、人生の終わりの地を求めて彷徨い、海岸線沿いの村「尽果(つきはて)」に辿り着きます。崖っぷちに立つ小屋「まぐだら屋」でマリアと出会った事で、紫紋の人生が変わっていきます。

紫紋、マリアの他にも過去になんらかの”罪”を冒して絶望の中で辿り着いた尽果の「まぐだら屋」はそんな人達を温かく迎えてくれます。

・・・死んで楽になるくらいなら、生きて苦しみなさい。苦しみ抜いて、生きなさい。それがあんたにできる唯一の償いなんだ。・・・

これが本作のテーマなのかも知れませんね。

タイトルからもわかる通り、宗教的な側面もある本作ですが、ページをめくっていく毎に切なく悲しくなってきます。そして最後の真実を目の当たりにすると、救われたような気がしました。

”生き方”を描いた作品としては、以前読んで投稿した「生きるぼくら」と近い世界観かも知れませんね。

「生きる意味」を感じさせる壮大なテーマだけに、じっくりと消化していきたい一冊です。

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「翔ぶ少女」(原田マハ)

阪神・淡路大震災で両親を失った少女・丹華(ニケ)の物語。兄妹とともに医師のゼロ先生に瓦礫の中から助けられ、復興へと歩みを進める町で、家族としての”絆”を育んでいきます。

助け出された際に足を負傷したニケは小学校でもほかの友達と違うと悩み、涙を流しますが、ゼロ先生から励まされます。

「ニケ。お前はな、ほかの子とは違う。お前の足は、もう、もとには戻らへんのや。それでもな。それでも前へ、前へ。歩くんやぞ。進んでいくんやぞ。なんでかわかるか!。人言うもんはな、ニケ。前を向いてしか、歩いていけへんのや。後ろ向きに歩いてみ。ひっくり返ってしまうやろ。」

「ゆっくりでええ。ほかの子に、追い抜かれたってええんや。自分の足で、前へ、前へ。歩くんや。進んでいくんや。」

そんなニケは心療内科医のゼロ先生とともに、焦土となった町で途方に暮れた人たちを癒していくことで、恋に落ちたり、自身の生きがいと希望を見つけていきます。

天災をテーマにした物語で、震災時の描写やその後の残された人達の描き方も身に迫るものがあります。しかし物語の後半は原田マハさんの作品には珍しくファンタジー的な描き方になっています。ギリシャ神話に出てくる勝利の女神と同じ名前を与えられたニケの名前の由来と、タイトルの由来も明らかになります。

阪神・淡路大震災、東日本大震災の天災を描いた作品は何冊か手にした事はありましたが、このアプローチは西洋芸術に造詣の深く、関西で学生時代を過ごした原田さんの想いを痛感させられました。原田さんファン以外の人にも手に取って欲しい一冊です。

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「風のマジム」(原田マハ)

主人公は伊波まじむ二十八歳。大手通信会社の派遣社員として働いています。そんな彼女の運命を変えた社内ベンチャー募集の告知。郷土沖縄のサトウキビでラム酒を造る事業を提案して、夢を実現させる物語です。

初めて”ラム酒”を口にして「おいしい」と言うまじむに、口の悪い?おばあが言います。

・・・あたりまえさ。風が育てた酒なんだから。まじむ。お前も、育っていけ。いいことも悪いことも、全部、風に吹かれれば、何とかなるさ・・・

”風が育てた酒”この言葉は本作のキーワードになっていて、作中何度も登場します。離島の空港で飛行機を降りた時の風、サトウキビ畑で吹く風など、タイトルにある通り、風の描写も素敵に描かれています。何度も”この風にふかれてみたい”と思いながらページを進めていきました

そうしてもう一つのキーワード「マジム」も多く登場します。沖縄のお国言葉で真心の意味との事。「真心こめて」「真心の酒」。

本作は実話をもとにして描かれているとの事で、巻末に原田さんのあとがきが掲載されています。

・・・笑って泣いて怒って、ときに挫折して苦い経験をして、それでようやくかけがえのない何かを得る。まったく人生、甘くない。だけど結構悪くない。そういう女性の人生を、いつか書いてみたいと思った・・・

夢見る女性への応援歌(エール)なのですね。

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「スイート・ホーム」(原田マハ)

地元で愛される小さな洋菓子店「スイート・ホーム」を営む一家と、そんな一家を取り巻く人々の心温まる物語。

結婚を決めた引っ込み思案な娘、陽皆(ひな)に向けて母が言います。

・・・あんたも、昇さんとあったかい家庭を作りなさい。小さくても古くてもええから、気持ちのいい家に住みなさい。もしも窓がなければ、窓辺のように花を置けばいい。家は、そこに住む人が、明るく、あたたかくするものなのだから。家は、人が住んで、家族になる。「ハウス」は、人と人が暮らして、時を経て「ホーム」になる。あんたも、昇さんと築かんと。新しいスイート・ホームを・・・

また、すれ違いばかりの結婚10年目の夫婦が、「スイート・ホーム」の街に新居を構えます。

・・・おれたち、暮らし方変えてみいへんか?どんなに忙しくても、帰りたいなぁ、思える家、作らへんか?どっちかが仕事で帰ってこらへんでも、どっちかが帰りを待っている。そんな家を。・・・

本作に描かれる人々の数々のエピソードは決して”波乱万丈”ではないですけれど、日々の生活に”温かさ”を持っているんですね。

そして”家族のカタチ”、”幸せのカタチ”を教えられた一作でもあります。

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「花々」(原田マハ)

島を愛する「旅人」の純子と、故郷の沖縄を出て東京のキャリアウーマンとして生きる成子を中心とした物語。タイトルの通り「鳳仙花」、「ねむの花・でいごの花」、「さがり花」等の花々が物語を彩ります。

原田マハさんのデビュー作「カフーを待ちわびて」のもうひとつの物語で、明青と幸のその後の物語も描かれています。

沖縄を舞台にした作品も多い原田さんの本領発揮ではないでしょうか。

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「美しき愚かものたちのタブロー」(原田マハ」

東京上野にある国立西洋美術館。その礎でありモネやゴッホなどの名品を抱く”松方コレクション”にスポットをあてた実話をもとにした物語。

・・・日本が列強に比肩するためには、軍備や財政ばかりではなく、芸術・文化にこそ注力しなけらばならん。美術館のひとつも持たずして、大国ぶるのは恥ずべきことだ・・・

そう語って私財を投じて西洋の近代絵画(タブロー)を一心に買い集めた資産家の松方幸次郎。第二次大戦後敗戦国となった日本はフランスに没収された松方の絵画(松方コレクション)を日本に返還してもらおうとします。日本側の交渉人の一人として美術史家の田代雄一が任命されます。田代は松方と一緒に絵画の収集を共にした一人だったのです。

全く絵画の事がわからない松方は田代に絵画収集の目的と夢を伝えます。

・・・どうせ美術館を創るなら、世界に比類なき美術コレクションにしてやろうじゃないか。たとえ極東の島国でもこんなりっぱな文化的施設があるのだということを、知らしめたいんだ。・・・

・・・文化・芸術をいかにし国民が享受しているかということは、その国の発展のバロメーターになる。すぐれた美術館はその国の安定と豊かさを示してもいる。もっと言えば、国民の「幸福度」のようなものを表す指標にもなるのではないか。艦隊ではなく、美術館を。戦争ではなく、平和を。・・・

松方と田代。生い立ちも、年齢も、財力も、社会的立場も、何もかも違うふたりに共通共通していたのは、唯一タブローに賭けた情熱だったのです。

絵画に造詣が深く、ゴッホやモネをテーマにした数々の作品を生み出してきた原田マハさんの本領発揮です。そして舞台となったフランスの風景描写は「絵画・美術館を愛する」原田さんならではだと思われます。

激動の時代の中で命を懸けてまで守られた絵画の物語。絵画好きはもちろん、これから絵画にふれられる方にもお勧めしたい作品です。

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「定年オヤジ改造計画」(垣谷美雨)

タイトルにつられて手に取った一冊です。

大手石油会社を定年退職した主人公、庄司常雄。悠々自適の老後を夢見ていますが、妻には拒絶され、娘には「アンタ」呼ばわりされてしまいます。そんな中近所に住む息子夫婦から孫二人の保育園のお迎えを頼まれて・・・。

「男は会社、女は家庭」と思って必死に働いてきて定年を迎えた主人公がいかにして再生していくのか?家族の気持ちを取り戻すのか?、身につまされる一冊です。

特に父と大手企業に勤めるキャリアウーマン(古いか?)の娘の会話がキーワードになっています。

・・・男社会で女が総合職で働くとなると、セクハラやら女をナメきった上司やら同僚にどんだけ我慢しなければならないか、屈辱に耐えて働き続けるストレスなんて、アンタには想像もつかないでしょう・・・

・・・男っていうのはね、若い女にだけ親切なのよ。そんなことも気づいていないの?アンタも無意識のうちにそうしてたはずだよ。若くもない女がこの日本で働き続けることが、どれほどのストレスかなんて、わからないだろうね・・・

会社員時代を振り返ると、身につまされる話ですね。

まさかまさかの展開でして、最初に本を手に取った際のワクワク感がいい意味で裏切られた作品です。

今夏NHKBSにてドラマ化されるそうですので、楽しみにしたいと思います。

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「一分間だけ」(原田マハ)

ゴールデンリトリーバーを買うことになったファッション雑誌編集者の藍。そんな愛犬リラを恋人と一緒に育てるところから物語はスタートしていきます。しかし、恋人が去り、残されたリラとの生活にも苦痛を感じはじめる頃に、リラが癌に侵されてしまいます。

リラの癌を知らされた藍は、主治医に私ができることはないかと尋ねます。

・・・飼い主さんは、少しでも長生きしてもらいたいと一生懸命になる。でも、犬にしてみれば、長いとか短いなんて、問題じゃない。一年間でも、一分間でも、犬の時間は一緒なんです。どれだけ濃い時間を一番好きな人とともに過ごせるか。それが犬にとって、一番大切なことなんですよ。・・・・

主治医のこの一言が、本作をすべて表しているのかも知れないですね。

すでに犬猫と一緒に過ごしている方、これから過ごそうとされる方、一読してみてはいかがでしょうか?。

本作は台湾・日本のコラボで映画化されています。

http://rira-movie.jp/

台湾、日本の文化の違いはありますから、原作は大幅に脚色されていましたが、「動物愛護」は万国共通ですね。

日本での映像化される事を期待したい作品です。

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「カフーを待ちわびて」(原田マハ)

第1回「日本ラブストーリー大賞」大賞受賞作であり、原田マハさんのデビュー作。

沖縄の小さな島でくりひろげられる、やさしくて、あったかくて、ちょっと切ないラブストーリーです。

不器用でコンプレックスを抱えた主人公明青(あきお)。初めて本土に旅した際、神社に「嫁に来ないか。幸せにします。」と書いた絵馬を奉納します。その後島に戻った明青のもとに一通の手紙が届きます。「・・・あの絵馬に書いてあったあなたの言葉が本当ならば、私をあなたのお嫁さんにしてくださいますか。・・・」。しばらくすると手紙の差出人幸(さち)が島にやってきます。ここから明青と幸と、裏に住む”おばあ”との不思議であたたかい生活が始まります。

沖縄言葉や風土風習、ページをめくるたびに”沖縄の風”が吹いてきます。今はなき「日本(沖縄)の原風景」なのかも知れません。

今まで私も2度、沖縄を訪れた事があります。南部の戦争跡地や首里城、中部のリゾート観光スポット、そして北部の「やんばるの森」まで。沖縄には様々な顔があります。本土とは全く違った文化は沖縄の宝だと改めて思い知らされました。

作者である原田さんは本作以降、沖縄を舞台にした作品を何作か発表されています。島原産のサトウキビを使ってラム酒を作ろうと奔走する「風のマジム」。そして、本作「カフーを待ちわびて」と同時進行で描かれた、もう一つの物語「花々」。旅好きの原田さんの「沖縄愛」がひしひしと伝わってくる作品です。

沖縄を旅する前、旅した後でも風を感じられる一冊です。

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「本日は、お日柄もよく」(原田マハ)

”言葉の力”を痛感させられたのが、本書です。

大手製菓会社に勤める二ノ宮こと葉はお気楽なOL。想いを寄せていた幼ななじみの結婚式で、涙が溢れるほど感動する衝撃的な祝辞に出会います。それが、伝説のスピーチライター久遠久美との出会いでした。空気を一変させる祝辞に魅了されたこと葉はすぐに弟子入りし、スピーチライターの世界に飛び込みます。

表紙をめくると”スピーチの極意 十箇条”が紹介されています。ごく当たり前のことなのかも知れませんが、最後の「十.最後まで、決して泣かないこと」は作者原田さんなりのポリシーでもあるのかも知れませんね。

スピーチを通した”人生訓”も描かれています。

・・・聞くことは、話すことよりもずっとエネルギーがいる。だけどその分、話すための勇気を得られるんだ、と思います。・・・

・・・安定した仕事で幸せになるのもいい。けれど、人を感動させ、幸せにする仕事に就けるのはもっといい、・・・

・・・困難に向かい合ったとき、もうだめだ、と思ったとき、想像してみるといい。三時間後の君、涙が止まっている。二十四時間後の君、涙は乾いている。二日後の君、顔を上げている。三日後の君、歩き出している・・・。

本書はもう一つ「政治、政権交代」をテーマとしています。スピーチライターの久美は野党”民衆党”のスピーチライターとして、党幹事長の最後の国会代表質問、弔辞などを手掛けてるのですが、このスピーチシーンが感涙ものです。以前WOWOWにて連続ドラマ化されていてましたが、やはりスピーチシーンは心に沁みましたね。

普通の”お仕事小説”ではない本書は、
 ・スピーチを生業にしている方(経営者含む)
 ・披露宴などでスピーチを依頼されている方
そして”議員”さんの教科書になるのではないでしょうか?。