東京上野にある国立西洋美術館。その礎でありモネやゴッホなどの名品を抱く”松方コレクション”にスポットをあてた実話をもとにした物語。
・・・日本が列強に比肩するためには、軍備や財政ばかりではなく、芸術・文化にこそ注力しなけらばならん。美術館のひとつも持たずして、大国ぶるのは恥ずべきことだ・・・
そう語って私財を投じて西洋の近代絵画(タブロー)を一心に買い集めた資産家の松方幸次郎。第二次大戦後敗戦国となった日本はフランスに没収された松方の絵画(松方コレクション)を日本に返還してもらおうとします。日本側の交渉人の一人として美術史家の田代雄一が任命されます。田代は松方と一緒に絵画の収集を共にした一人だったのです。
全く絵画の事がわからない松方は田代に絵画収集の目的と夢を伝えます。
・・・どうせ美術館を創るなら、世界に比類なき美術コレクションにしてやろうじゃないか。たとえ極東の島国でもこんなりっぱな文化的施設があるのだということを、知らしめたいんだ。・・・
・・・文化・芸術をいかにし国民が享受しているかということは、その国の発展のバロメーターになる。すぐれた美術館はその国の安定と豊かさを示してもいる。もっと言えば、国民の「幸福度」のようなものを表す指標にもなるのではないか。艦隊ではなく、美術館を。戦争ではなく、平和を。・・・
松方と田代。生い立ちも、年齢も、財力も、社会的立場も、何もかも違うふたりに共通共通していたのは、唯一タブローに賭けた情熱だったのです。
絵画に造詣が深く、ゴッホやモネをテーマにした数々の作品を生み出してきた原田マハさんの本領発揮です。そして舞台となったフランスの風景描写は「絵画・美術館を愛する」原田さんならではだと思われます。
激動の時代の中で命を懸けてまで守られた絵画の物語。絵画好きはもちろん、これから絵画にふれられる方にもお勧めしたい作品です。